しかし、相手も甘くはない。
合衆国が誇るアナセスと共に特使に選抜されたアダム、ロビンである。
いてぇ、とふらつき呻きながら立ち上がったロビンに、ダメージは大して感じられなかった。
倫子もそれを予測していたのか、ロビンを倒しても尚、警戒を解いてはいない。
全く無関係な第三者すら痺れさせるような殺意に、一同が息を飲む。
内から沸き上がらせる冷徹な感情に身を焦がしているようにも、正気を保っているのかすら、怪しく。
「あの方は、まるで炎のようですね…」
そうアナセスが呟いた通り、倫子からは青い気配が漂い続けていた。
無駄に鍛えられた体躯は美しいわけではない。
美しいわけではないのに、精錬された鉄の刃のように折れない。
「…触れれば傷を負ってしまうのに、触れずにはいられない」
絶対的な強さを、ただ静かにその身の内に灯している。
それなのに。
「ゆらゆらと、吹けば消えてしまいそうに、弱い」
真の姿はどちらかなど、愚問だった。
それはどちらも、彼女を形成するものであり、彼女はきっとどちらにも染まりうるのだ。
「…やるじゃん」
「手加減すんなっつったろうが」
額を赤く腫らしながらも軽口を叩くロビンに、倫子は苛、と返す。
「なんだよ、苛々するなよ」
そう言いつつ、ゆるゆると揺れる金色の前髪は隙を見せない。
「喋るな。余裕ないから、今」
キリキリと胃が絞られるように痛む。
緊迫したこの状況で、能力を自在に操れるよう維持するにはかなりの集中力が必要なのだ。
周囲を囲むアダム達は、今か今かと倫子がボロを出すのを監視している。
周囲が味方についているロビンとは、圧力の受け方が違う。
(糸が切れればおしまいだ)
貧弱なイヴとして、変わらぬ毎日を過ごすのか。
侮蔑される、日々。
平伏す、日々は。
―――そんなの。
ロビンが右脚を引いた。
(来る…)
「死んでもご免だ」
パァンッ。
地面を弾くようにロビンが加速した。
事実、ロビンが立っていた床はクレーターのように凹んでいる。
(…、っ速い)
さっきの倍は速い。
動きを追うまでもなく、所詮はヒトのものであるこの眼には残像しか見えない。


