「不満かよ、コノヤロー」
思わず、口をついて出たそれに、倫子はいいや、と首を振る。
楽しそうに口許を緩めている様は、よもや自分がやられるとは思っていないらしい。
「ただ、憐れまれるのは好きじゃないんだ」
見透かした言葉。
睨みつけてくる眼に、息を飲む。
「…別に、そんなんじゃ、ない」
この殺意はかつて、抱いたこともないような感情を沸き上がらせる。
知りたくないのに、踏み込んでしまうような、禁忌の領域。
「―――じゃあ、本気で来てよ」
それは「修羅」の、もの。
―――…キィン。
力と力がぶつかり合う摩擦音。
これが高ければ高いほどその能力は純粋で限界まで研ぎ澄まされ、なにより互いに拮抗しているということだ。
「…っ、」
先に手を出したのは倫子だった。
無駄に体力を消耗するサイコキネシスは使わない。
まずは己が以て産まれた肉体で相手を押し計ろうと、雲雀と共に鍛えた拳をロビンの腹めがけて捻り出す。
異人のロビンは上背が高すぎて、下手に顔を狙うとこちらに隙が生まれるからだ。
それをあっさりと避けたロビンがぶらりと垂らしていた腕を跳ね上げる―――狙いは、倫子の首。
「っ!」
喉元を裏拳で弾かれる前に、その腕を掴みあげそれを支点に跳ねる。
俊敏さには、多少の自信があった。
周囲からは相変わらずの「コロセ」コールが渦巻いている。
正直、耳障りだし不愉快だが、今は構っている場合ではない。
「…倫子さ、」
ロビンの蹴りを避けてすぐ、半泣きの真鶸の声が耳についた。
内心で謝りながら、ロビンの手から打ち出された高圧の電撃をなんとか霧散させる。
力の流し方は、雲雀に教わった。
『潜在能力はあっても、橘の体じゃ100%は使えない。なら、極力抑えた力を始点にして相手の力を利用すればいい』
散らした電撃は息を飲むほど強力だが、しかしこれを巧く相手に返せればそれなりのダメージを与えることができる。


