(―――な、なにを考えているんだあの教師は!)
ロビンは思わず身を乗り出していた。
梶本の件は事なきを得たとして、その直後こんな予想外が待ち受けているとは。
(最低基準を下回る能力値のタチバナの負けは確実…!負けるということはすなわち、)
「僕にやらせてください」
ひとりが挙手した。
それを見ていた群衆に、ぽつりぽつりと手の数が増えていく。
「いえ、私に」
「俺にさせろよ!」
「私がやります!」
次々に挙手が沸き起こるなか、これが物騒な理由からだとは思いたくない。
百人いれば百人が、橘倫子に痛い目を見せてやりたいと考えているのだ。
ただでさえ痛ましい彼女の傷は、完治すらしていないというのに。
(…いや、そんなこと俺には関係ないだろ!寧ろ邪魔者を身内で排除してくれるならそれで、)
「うぜぇ!全員くたばれ!」
ロビンの必死の自己暗示すら中断された。
それも、倫子本人の言葉で。
「……、」
バカとしか言いようがない。
自ら火に油を注ぐような真似。
しかもその油に漬かっているのは自分だというのに。
「まあ、勇ましい」
アナセスから感嘆の声が上がる。
嫌味ではない。
彼女は心底からそう思っているのだ。
藁にも縋る思いで雲雀を見る。
(大切なパートナーを見殺しになんてする筈がない…!)
しかし、淡い希望はすぐに打ち砕かれた。
瓏々たるその横顔には、さも愉しいと言わんばかりの笑みが貼り付けられていたからだ。
(タチバナミチコを試そうとしてる?いや、試すもなにも…)
イヴである倫子と一般アダムとの差など歴然。
ただでさえ五体満足とは言えない倫子に、果たして勝利があるか?
―――いや、ない。


