「―――…っ!」
暗澹とした視界が急激に開ける。
喉に詰まる唾液が、酷く不快だった。
(…キモチ、ワルイ)
「起きたの?」
耳に心地よい音が届く。
ひばり。
声は確かにするのに、暗い部屋を見渡しても影すら見当たらない。
ひばり。
「雲雀…、どこ?」
口にして、あまりの情けなさに口を噤んだ。
なんだ、この枯れた声。
寝る前よりずっと、意識ははっきりしてるのに。
(独り…)
「ひば、」
胸に湧いた、色に例えるなら黒い孤独感と喪失感に耐えきれず、ぐらぐらと沸く頭に耐えて半身を起こす。
捲れたシーツに、露出した肌がぞわりと震えた。
ひやりと爪先に触れた、無機質な温度に身を竦める。
―――真っ暗だ。
(…ここ、どこ?)
暗闇は、いやな記憶を引き摺りだそうとする。
思い出したくなんかないのに、正気の意識を眠らされて墜ちていく―――先は、狂気の沼だ。
『きもちわるい、』
『…近寄るな』
『オマエなんか、』
「―――橘…」
がしり、と首根っこを捕まれた。
ひくりと喉が鳴いて、呼吸困難に陥っていた気管が性急に呼吸の仕方を思い出す。
「…っ、」
ひばり。
縋るよう伸ばした片腕を捻るように掴まれて、体勢を変えて頬を撫でられた。
「…橘」
粉々になった私の断片を、拾い上げていく。
さらさらと流れてゆく彼方の、端々に散らばるすべて。
「ひばり、…っ、」
ひきちぎってしまうのではないかと思うほどの力でその腕を掴む。
ひくり、鳩尾が震えた。
「ぅ、ぁっ」
込み上げる熱を止める術を、私は知らない。
熱く震える胸が憎らしい。
「…橘?」
なんで、なんでなんでなんで。
こんな記憶、知らない。
こんなの、私の過去なんかじゃない。
―――こんなの、あんまりだ。
「ッ…、」
こめかみが高く鳴いて目眩がした。
理性を喪いかけた腕で必死に縋りついて、それから。
「怖い夢でも見たの?」
そうして、抱き止められて。


