「捕まればひとたまりもない…。私のマリオネットに、油断は禁物だよ」
傍観者へと立ち回った桐生に、自然と舌打ちが漏れる。
荒い動きでこちらへと向かってくる男に、倫子は記憶を手繰るように目を細めた。
『―――死にたく、ない…まだ、俺は…』
男は、ただの父親だった。
家族の為にちっぽけな罪を犯した、ただの男だったのだ。
『…まだ、まだ、』
死ねない。
そう、最期に溢した言葉は、家族のもとへ帰りたいと。
『娘が、待って、……』
―――耳が焼けそう。
視界など塞いでしまいたいのに、自身の五感は思いの外、鮮やかに世界を映し出していた。
(…私が殺した)
「…あんな男に、くれてやるつもり、なかった」
この手でその首を絞めつけた感触は、まだ皮膚の内側に息づいている。
視界の端で雲雀を捉えた。
双子の無駄のない動きを遊ぶように避けながら、倫子を見ていた。
(決着は、君がつけなよ)
倫子の罪は、倫子にしか償えないのだと、その冷たい眼は語る。
前を見れば、白濁に侵された、かつての罪人。
―――今はもう、安らかに眠っていて欲しかったのに。
死して尚、凌辱されているのか。
「…ごめんね」
男が走り、間合いを詰めてくる。
男との距離が縮まれど、倫子の手足は動いてくれない。
―――動かなくていいと、体は知っていた。
『ヒトを殺す技術なんか、要らない』
『私を散々いじくり回しておきながら、まだ足りないっていうわけ?』
―――君は、万能の神になる。
(…求めたものは、)


