せりあがる吐き気に、倫子は唇を噛み締めた。
(舌に滲む己の血すら、罪の味がする)
「橘」
雲雀が、私を見てる。
罪を背負うこの姿の、なんと惨めで憐れなことだろう。
「…っ、」
―――あの頃、どれだけ焦がれても焦がれても届かない雲雀の代わりに、彼を殺した。
「脅えているのか、可哀想に。…しかし彼は、君によってそれ以上の恐怖を味わったのだろう」
低温の声が耳を犯す。
罪深い過去を、無遠慮に抉り出し、そして腐敗させていく。
『なにが欲しい?倫子』
いや、だ。
『…ヒバリを殺したい』
もう、いやだ。
(雲雀が、私を、見て、る…)
―――もう、暴かないで。
「…っ、」
男が跳ねた。
同時に双子も真上へと駆け上がる。
双子は雲雀へ。
男は、倫子へ。
「橘!」
双子の攻撃をかわしながら、珍しく雲雀が声高に叫んだ。
「…っ!」
雲雀の鋭い声で我に返った倫子が、目の前まで迫っていた男の爪に慌てて真横に転がる。
避けた男の腕が、倫子の背後にあった壁をさくりと突き抜けた。
足に力が入らない。
死人を、自らが殺した男を前に、体中から力が抜けていく。
ガシャリ、…と壁から腕を抜き、男はすぐさまこちらに向かってくるう。
その動きはあまりにも軽く、操られているということは、つまり。
「…体格はいいが、彼の中身は空っぽだよ。私が操りやすいように、本物の人形にしてある」
(―――それなのに、この破壊力かよ…!)
先程、壁を突き破った腕を見れば、やはり無傷ではないらしい。
血は滲まないが、しかし代わりに加工された皮膚が剥げかけている。


