門番に鉄柵を開けさせる。
この街で、この土地で、雲雀の顔を知らない者はいない。
無言の会釈で在籍する生徒代表を迎えた門番を後に、雲雀は学舎への正門へと足を運ぶ。
―――異様に静かだ。
確かに生徒や教師の気配はあるのに、声がなにも聞こえてこない。
雑談であれ授業であれ、なにかしら声を発する筈なのに、だ。
(話す必要がないのか、…或いは話せない状態なのか)
テレパスが飛び交っている様子もない。
詳細はともかく、この異様な空気に雲雀は気だるげに息を吐いた。
(厄介なことになりそう)
カツリ、
カツリ…。
どこまでも続く大理石の回廊を奥へ奥へと向かう。
光合成なしで生きていけるように改良された艶やかな木々の緑が、壁一面の窓から揺れていた。
『太陽を必要としない植物なんて、もはや植物じゃねえ』
造りものと同じだと口にしたのは、倫子だった。
『可哀想だ。植物なのに植物じゃないなんて』
造り変えられた植物に情を寄せて憤慨したのは。
(…自らも、意志に関係なく、造り変えられたから?)
静かな回廊に、微弱な陽光を反射した白い雲が発光している。
それらが差し込み、雲雀の視界をぼんやりと歪ませている。
―――酷く、曖昧だ。
夢と現実の境界線が、危うい。
カツ、カツ…。
聞き慣れた回廊に響く自身の足音が妙に耳に障る。
倫子はこの場所にいるという確信が、普段より明るい白雲の光に惑わされていた。
右に古い木で作られた装飾の美しい各教室の扉。
左には天井から床までをぶち抜いた十字仕切の大窓。
閑散とした空気は相変わらずだが、しかし、どこかざわつく空気の襞に雲雀は眉を寄せた。


