それを見て、慌ててその腕に力を入れる。
床に叩きつけられる寸前、「私」の命令を聞いた腕は、宙で停止した。
(…ちゃんと、私が動かしてるよね?)
試しに人指し指を曲げてみる。
―――曲がる。
(ちゃんと動く…)
次にピースをしてみる。
多少の違和感はあれど、ちゃんと倫子の意志通りに動く指に心底ほっとした。
筋肉の収縮も、血液の流れも、ちゃんと自分の手中にある。
―――疲れた。
それは雲雀も同じらしく、目の前に膝立ちしている倫子の肩に額を乗せて、ぐったりとしていた。
柔らかな黒髪が首筋を撫で、滑らかな額の感触を肩越しに感じる。
(…なにこれ、ちょっと可愛い)
ふたりしてぐったりしていると、ぽかんと口を開けて見守っていた真醍と奥田がやっと我に返ったようだった。
「端から見てたらよく解らなかったんだけど、雲雀くんは倫子を傀儡に出来たの?」
「なんかすげー違和感あったべ」
それぞれ感想を述べたが、倫子達はそれどころではない。
(腎臓に負担がきてる。気持ち悪い…吐きそう…)
雲雀も同様に、体調というよりは気分が悪そうだった。
もしかしたら、雲雀の方が相当苦しかったかもしれない。
倫子はただ雲雀に委ねているだけだったが、雲雀は自分と倫子まで背負わなければならなかったのだ。
それも未知の能力を手探りで試すために―――。
倫子の意識が自身と混濁して後戻りできなくならないよう、それはそれは気を張る必要があっただろう。
「…っ、」
ひばり、と呼ぼうと息を吸ったら、胃からなにかが込み上げた。
慌てて唇を噛み締め、それを押し止める。
(と、にかく、気持ち悪い…。このままだと、吐く)
疲れ切って首すら動かせない状態だった。
不審そうにこちらを見ている真醍と奥田は、首を傾げたままなにもできずに見ているだけ。
突っ立ってないで介抱しろ!と怒鳴ってやりたいが、いま口を開けば吐いてしまいそうだった。
「水…」
すると、雲雀がゆっくりと顔を上げた。
肩にあった重み不意にがなくなり、その反動すら、嘔吐感に拍車を掛けた。


