「プラスがあるって、絶対」
萎びた奥田の代わりに説得を試みるのは真醍。
「リスクが大きすぎる」
それを跳ねつける倫子。
話し合いは平行線。この面子で話し合いもクソもないが。
「…ねぇ」
しかし、不意に発せられたすゞやかな声がそれに終止符を打った。
勿論、その人物は上記のループに不参加だった雲雀である。
押しやられている倫子の両頬をがっちりと掴み、自分の方を向かせた。
「早く済ませたいから、ちょっと静かにしてて」
間近で見ても曇りひとつない美麗に間近で窺われる。
発した言葉はお伺いをたてるなどという謙虚なものでもなんでもなかったが。
「や、だ!」
いやだって。
(雲雀に記憶が流れ込んじゃったら、私はおしまいだ)
「…橘」
駄々をこねるように嫌がる倫子を、凛とした冷たい目が抑え込む。
「…っ、」
「僕が信用できないの?」
出来るか!
力一杯叫んでやりたかったが、何故かその言葉が喉を抜けることはなかった。
「ワォ、猛獣使いになれるよ、雲雀くん」
玩具を与えられたこどものように、途端に大人しくなった倫子を見て奥田が陽気に口笛を吹く。
(…殴りたい)
しかし今は、頬をがっちり固定されてるせいで僅かにも動けなかった。
この細い指のどこに、そんな力があるのか。
「君達も静かにして。橘の意識が乱れると、捕まえにくい」
ちょっと、なんでほんと、私が犠牲になることで落ち着いちゃってんだよ。
しかし雲雀の言葉に、真醍と奥田が素直に口を噤んだのは気持ちがよかった。
(ザマーミロ)
心の中で嘲笑えば、頬に当てられた冷えた掌がじわりと熱を持つ。
「…っ、」
明らかに尋常ではない熱に、困惑する。
皮膚が、融けてしまう―――。


