「橘」
あ、雲雀の声だ。
「…橘」
無理だよ、雲雀。
酷く眠いんだ。
昨日、泣きすぎたせいで、瞼が重い。
「馬鹿」
ぱしり。
いたい。
腫れた目を開けたら、真っ暗だった。
「…あれ?まだ夜?」
「なに言ってるの。その不細工な顔が直るまでそれで冷やしてなよ」
(冷や…?)
布団の中から引き抜いた腕で、真っ暗な視界に触れる。
(あ、濡れタオル…)
どうしちゃったんだろう。
「ひばりぃ、やさしいね」
それは倫子の預かり知らぬところで負い目があるからだと、わざわざ言及することでもない。
当然、雲雀は無言のままだった。
「ひばりぃ」
「…なに」
夢を。
「夢を、見たよ」
「どんな」
「雲雀が笑ってるユメー」
あぁ、冷やっこい。
雲雀から渡されたタオルは絶妙な冷たさで腫れた瞼を冷やしてくれる。
「なんでだろ」
「……………………………………………………………………………………なんでだろうね」
なに、その怪しい間。
(まぁ、それは置いといてさ)
「…なんか今日、唾がものっそい出てる」
目覚めた時のこの不快感。
舐めすぎて腫れたときのような唇の感触に、咥内に溜まる唾液が気持ち悪い。
(いつもと違う味がする)
雲雀は応えなかった。
(まぁ真面目に応えるような事でもないか)
隣室で雲雀が眉を寄せているとは露知らず、倫子は濡れタオルを取り上げゆっくりと瞼を開けた。
真横から差し込む微弱な朝日の角度に、まだかなり早朝なのだということを知る。


