そうこうしている内に腕の中の橘が小さく身じろいだ。
「ぅ…、」
一声唸ると、ぱちりと目を瞬く。
気道を塞がれていたわりには、随分と逞しい。
(間抜け顔…)
思わず呆れる雲雀をよそに、倫子は暢気に欠伸をかました。
「…のろがいらい」
そう言い、喉を抑える倫子の様子に雲雀は更に呆れるしかない。
「絞殺されかけてたからね」
思い出したらしい。
倫子の寝ぼけ眼がウンザリと閉じられたが、次の瞬間には驚愕にばちりと見開かれた。
伏せていた体を起き上がらせ、負傷している雲雀の腕に飛びつく。
「ちょ、雲雀!なにこの腕!」
倫子の視界を占領する真っ赤な右腕。
シャツも肘上まで擦り切れ、剥き出しの肌は細いナイフでズタズタにされたかのように無惨だ。
しかし当の本人はさして気にした様子もなく。
「あぁ、別になんでもな、」
「馬鹿か!こんな腕ズタボロにしてなにボケッとしてんだよ!馬鹿!スズメ!」
果たしてスズメは悪口に入るのかどうかはさておき、倫子はなにかを探すように慌てて辺りを見渡した。
(腕を千切られかけて平然としていた鈍感に馬鹿呼ばわりされたくないな…)
雲雀のそれはもっともなご意見である。
殴ろう、と雲雀が腕を上げたところで、倫子はやっと目的のものを発見したらしい。
駆け出した倫子に振り下ろされた腕は、するりと空を切る。
雲雀の機嫌が更に傾いた瞬間だった。
「雲雀!」
しかし、再び駆け戻ってきた倫子の手に握られたそれを見て、雲雀は首を傾げずにはいられなかった。
「なにそれ」
倫子の手には破かれたような白い布の断片。
「双子の服、少しだけ失敬してきた」
倫子はなんとはなしに言うと、それを包帯代わりに雲雀の腕に巻き始めた。
「奥田も呼んだし、あとは双子を───」
不器用にクルクルと布を巻かれていく右腕を見ながら、雲雀は妙な感覚に陥る。
「…あとで奥田にちゃんと診てもらわないと。奥田が嫌ならササリにでも。…痕、残っかなぁ」
自分の体には馬鹿が付くほど無頓着な癖に。
これは、無償の優しさ、と呼ぶものなのだろうか。
考えて、触れるそのかさついた指に過敏になっている自分に鼻を鳴らす。
(馬鹿らしい…)
包帯代わりの布がくるりと巻き上げられたのを確認するや否や、雲雀は無造作に倫子から離れた。
そのままスタスタと歩き出し、倫子から距離を置く。


