「あのー…」
ふと群集の中から一本の手が上がった。
そちらを見れば、東部の生徒がひとり、周りの雰囲気とは異なる様子で立っていた。
「先生に言われてきたんだけど、雲雀さんに来客らしくて」
「客?」
「誰かはわかりませんが、賓客室でお待ちだそうです」
賓客室?
(めちゃくちゃグレード高い客じゃん。賓客室って、本来なら開放厳禁じゃなかったっけ)
「どうも、ありがとう。すぐ向かわせますんで」
じゃあそゆ事で、皆さんも解散。
そう言い放って扉を一気に閉めると、一秒後にはブーイングの嵐、嵐、嵐が巻き起こった。
部屋に戻れば、雲雀がソファから立ち上がったところだった。
「聞こえてた?」
「うん」
解かれていた首元の細いリボンを結び直している雲雀を見て、倫子は首を傾げる。
「その様子だと、客が誰かわかってるみたいだね」
普段は「客」には見向きもしないくせに。
雲雀がきちんと身なりを整えるほどの相手ということだ。
「まぁね」
「あんたに身支度を整えさせるほどの客なわけ?」
「…気になる?」
ならないわけじゃないけど。
「まぁ、多少は」
正直に話せば、雲雀は口許をじわりと歪めた。
それは今までにないほど、歪で醜くて、美しい。
「…両親だよ」
口に出したくもない、というような口調だった。
『―――雲雀さんは、この世界にとって最も必要とされているアダムなんですよ』
なんで、そんな。
「…ひどい顔で笑うね、あんた」
家族のことで、なにか嫌なことでもあるわけ。
口にすれば、みるみる表情から色が落ちていく。
「君には関係ない」
そんな諦めたような目で睨まれたって、怖くもなんともない。
「…それに、彼らは僕の本当の両親じゃないから」
え、
「ひば、」
言葉が見つからなかったのは、雲雀のその表情があまりにも冷たかったから、で。
(えぇと…)
言葉を選ぶように顔をしかめている倫子に、やがて雲雀はふっきれたように笑顔を向けた。
「嘘だよ」
は?
放たれた一言に、一瞬思考が止まる。


