「―――…橘」
あれ。
その麗らかな声に、ゆっくりと瞼を上げる。
また眠らされたのだろうか。
瞼が重い。
眼球が熱を持っている。
ついでに全身も重い。
「…橘」
(誰?…奥田?)
「早く起きたら」
ばちん。
「いてっ」
頬を裂くような痛みが走る。
叩かれた。
飛び起きれば、そこは例の場所ではない。
(…夢?)
柔らかな間接照明が室内を照らしている。
四方の壁のうち、三方丸々窓でぶち抜かれたこの部屋は。
「…ひばり」
視界に玲瓏な姿が入ってやっと、これが夢じゃないとわかる。
「起きれたね。体は」
言われて、鉛のようだった体で半身を起こしている自分に気が付いた。
節々が痛むが、倒れた当初よりだいぶマシだ。
「あ…、大丈夫」
起き抜けだからだろうか。
なんだか雲雀が優しい気がする。
「…なに、その顔」
余程おかしな顔をしていたらしい。
雲雀の眉間に不可解だと言わんばかりの皺が寄っている。
「いや、あの、優しいね。…なんとなく」
認めたくはないけど。
そう言うと、雲雀は倫子を鼻で笑い飛ばした。
「なに言ってるの?僕はいつも優しいけど」
「…すみません腹の肉摘みながら微笑むのほんと止めてくれませんか、痛い上に屈辱的だわこれ」
いつのまにかシーツの上に乗り上げている雲雀に腹を摘まれて、倫子は動けやしない。
「ぶよぶよだね。鍛えたら」
あぁ、やっぱり?
最近いいもんばっか口にしてるから自分でも気にしていたところではある。
「…って、テメェエ!せめてぷよぷよって言えよ!なにぶよぶよって!棺桶に突撃する寸前のばーさんみたいじゃん!」
「そうだね。君みたいなバカと一緒にされたら老婆が可哀想だよね」
「いやいやいやいや、可哀想の基準おかしくない?つーかお前は優しくない!ほんと優しくない!優しいかもなんて誤解だった!ほんの一瞬の夢を見ただけだった!」
叫びながら、シャツの上から腹の肉を無遠慮に揉んでいた手を叩き落とす。
雲雀は反撃もせず、ベッド脇に腰掛けたまま倫子を見ていた。


