『ねえちゃん…?』
弟達の消え入るような声。
振り向けば、表情も同様に不安げにこちらを見ていた。
『なあにシケた面してんの!ご飯冷めるよ、食べよう!』
誤魔化したわけではなく、ただそうとしか出来なかっただけ。
それでも不安げにこちらを見る可愛い家族に、苦笑が漏れた。
(置いていける筈ないのに、でも)
それは、叶わないのだろうか。
『倫子…』
父親にも母親にも話はした。
話をしただけで、なにが変わるわけでもない。
箱舟へ出立する朝、弟達の縋るような目が。
私が家を出ても、支援が出る。
そうなれば、両親は出稼ぎに出なくて済む。
だから、弟妹達のことは両親に任せることができるのだ。
心配など、ないではないか。
―――けれど。
『ねえちゃあん…』
こんな幼く、愛しい弟妹達を、置いて。
(ごめんね、)
そんな安っぽい言葉、口が裂けても言えない。
あぁ、でも。
『いってくるね』
ごめんの代わりに、その言葉を言わせて。
きっといつか、帰ってくるから。
『…ここが、箱舟?』
役人に連れられ、三日半も掛けて到着した場所は想像していたような場所ではなかった。
白い洒落た洋館を中心に、放射線状に庭園が広がるその場所。
おおよそ、病人を回収するような場所には見えない。
とはいっても、実際にこの目で箱舟を見たことがなかった私は、役人に言われるままその場に足を踏み入れたのだが、白い洋館内は外見通り、内装も期待を裏切らなかった。
朗らかで柔らかな雰囲気が、白を基調に優しく広がっている。
安堵した。
見知らぬ土地で、知り合いもなくこんな場所に連れてこられたのだ。
その穏やかな空気に、不安が少し和らぐ。
―――道中、自分が何故アダムと判明したのか話を聞くと、数ヶ月前、地元の学校を訪れていた街の貴賓の女性が、テレパスをキャッチしたからだという。
はじめはその女性をアダムかどうか検査したが、その女性は陰性だったため、彼女に思考を飛ばした人間――つまり「橘倫子」に疑惑の目が向いたというのだ。
そしてアダムの特殊な能力を使って調べてみれば、限りなく陰性に近いが、アダムとして陽性反応が出たという。


