(奥田、呼ぶかな…)
ぼんやりとした意識で、そう考えた時だった。
「…目が覚めたの」
ベッドを覆っていた白いカーテンが、さっと引かれる。
カツ、と足音が響き、そこから現れたのは雲雀だった。
「…ひばり」
ざらついた声で、その名を呼ぶ。
まさかいるとは思っていなかったため、驚いた。
「はい」
差し出されたのは、水が並々と注がれた、コップ。
「え、あ、…ありがと」
その優しさと気遣いに、更に驚く。
どもった倫子を気にしたふうもなく、雲雀はいつもの玲瓏な表情で続けた。
「喉乾いたって、五月蝿かったから」
いやまさか、だからって持って来てくれるとは。
意外だ。
明日は空から槍が降るかもしれない。
「持てるの」
コップを手にしたまま、ベッド脇のパイプ椅子に腰掛けてこちらを見つめてくる。
少し伸ばされた前髪の隙間から覗くぱしぱしの睫毛が、ベッドに寝かされている身体を一瞥した。
しかしぼんやりとしたままの倫子には、その問い掛けの意味がわからなかった。
「なにを、」
朦朧としたまま、首を傾げて見せる。
「水。薬が効いてるでしょ」
水を持ってきてもらったとしても、今の倫子は起き上がれもしなければ手を動かすこともできないのだ。
水はあるのに、この体でそれを飲むなんて、到底、無理な話。
(まさか雲雀の奴…、それを承知で持ってきたとか)
だとしたら、どこまで根性悪なんだコイツ。
考えて眉間に皺を寄せる倫子に、今度は雲雀が首を傾げた。
「…なに?痛むの?」
訝しげだが、しかし真っ直ぐな視線を向けられて、正直、戸惑う。
(あれ、心配されてる?)
「え、…いや、全然。それは、大丈夫なんだけど、」
なんだよ、急に。
(無表情で優しくされると、困るんだけど)
素直に喜んでしまう自分が恨めしい。
照れ隠しに顔をしかめれば、雲雀はまた首を傾げて見せた。


