「戦場では、お喋りが命取りになるそうだよ」
爽笑。
腕一本で果てまで吹っ飛ばされたロゥは、回廊の柱を三本ぶち抜いた。
「ロゥ…!」
リィの悲鳴が響く。
一瞬にして瓦礫の山が出来上がり、破壊の比は姉弟をあっさり凌ぐ。
しかし大したダメージにはならないだろうと、倫子は思った。
膝を掴まれた時、ぴくりともしなかったのはアダムとしての能力ではない。
(…あれは、筋力だ)
相当、鍛えているだろう。
あの華奢な法衣の下に、どれほどの肉体が隠れているのか。
そうして姉弟に視線を向けたままの倫子に、雲雀は音もなく手を伸ばした。
行き先は血の滴る右腕。
肉の裂け目からは、白々とした骨が見えている。
相当な傷にも関わらず、それには無頓着らしい倫子は傷口に伸びる手に気づかない。
痛々しい傷など見慣れているのに、何故か、雲雀は気分が悪くなるのを堪えられずにいる。
「…馬鹿だね」
ぽつりと呟けば、苛立つその原因がこちらを見上げた。
「なに?」
「そろそろ倒れるよ」
脈絡のない言葉に、倫子が小さく首を傾げる。
「…い、」
それを無視して右腕の手首を掴めば、倫子はやっと思い出したかのように顔を歪めた。
雲雀の冷たい手が、熱の籠もる腕に気持ち良い。
「…どうして、ここが解ったの」
「気配がしたから」
「…あいつらの?」
「君のもね」
ガラ…。
瓦礫が崩れ去る。
リィの手を借りて、全く無傷のロゥが立ち上がった。
倫子は思わず身構えるが、雲雀はそちらを見ようともしない。
(雲雀?)
テレパスで呼び掛けても、なんの動きも見せようとはしなかった。
ただ倫子の傷口の付近を撫でるように、指先で弄んでいる。


