「…あ、」
足音が一番大きくなったとき、倫子は小さく、顔を上げた。
一番に目に入ったのは、生意気そうな瞳を浮かべた、ひどく秀麗な容姿をした男。
「…、」
「それ」を姉弟が視認した途端、負傷した右腕を支配していた爪が離れた。
見れば、いつの間にか目の前に立っていた男がロゥの腕を握り潰している。
「……雲雀」
青みがかった黒の双眸が、こちらを見遣ったかと思えば鼻で嗤われた。
その笑みだけで嘲笑う無言が。
(ムカつく…)
「なにしてるの」
「…見てわかんない?」
「わかりたくもない」
雲雀がちらりと倫子の右腕に視線を落とした。
固まった血と流れる血で、赤茶けてしまった汚い腕を。
気に食わなそうに眉根を寄せたのは気のせいだろう、きっと。
ロゥとリィは雲雀の登場に驚き過ぎて、目を丸くしている。
「―――誰?」
自分を無遠慮に凝視するオッドアイ。
雲雀は不快だと明言するように眉間に皺を寄せる。
「裏組織」
倫子はつい、状況を少しでも改善しようと雲雀に補足してしまった。
「あぁ、そう」
そこで気付く。
雲雀に秘密結社のことを言ってしまった。
知らぬことを聞いたにしては素っ気ない返事だが。
(…奥田は昨夜、話をしたのだろうか)
倫子が失態を侵したと己を責めた時。
「…知ってたよ」
まるでその心を見透かすように、綺麗なアルトはそう言い捨てた。
ひくりと喉が震えたが、しかし雲雀はそんなこと気にもしない。
「僕が望んでもないのに、無遠慮に親交を謀る愚図ばかりでね」
雲雀の揶揄に、倫子は目を丸くする。
「…襲われたこと、あるの?」
その問い掛けに、秀麗な男は肩を竦めて肯定して見せた。
おどけたその様子ですら様になるのだから、狡い。
しかもその真っ白な指は、未だロゥの腕を掴んだままだ。
「何度か。…彼らとは初対面だけど」
雲雀の緩やかな視線が、唖然としたままのリィとロゥに向けられる。
その視線に、ふたりははっと息を飲んだようだった。


