目下、西部の女生徒達の興味は「修羅」にあるらしい。
見目麗しく、この退廃した国で最も有力といわれる家柄の子息。
その上アダムとしての能力も目覚ましく、東部箱舟の会長に就任。
箱舟連盟のトップから神の称号を与えられた、唯一無二最年少アダム。
まさに現代版リアル王子ってやつだ。
女の子が夢を見るのも仕方ない。
そんな夢見る彼女達は、足早に海を望む回廊を駆け抜けていった。
ここ西部箱舟は、その建物自体がどこまでも続く浜辺に面しており、十分もかけず海に出ることが出来る。
海洋側は全てガラス張りになっているこの白いホールは、まるで教会のような造り。もしくは、病院の待合室。
忘れられがちだが、アダムは重度の病人扱いなのだからその雰囲気が漂うのは仕方ない。
大きな窓から覗く汚染された海。
臭く暗く汚く、悲しい。
くわえて見上げた空も重い暗雲が立ちこめているのだ。
それらがあいまって薄暗い遥か彼方の水平線を見ると、今まさに世界の終わりがやってきたような感覚に陥る。
(…気分も下がるっつの)
その時だった。
「ミーチーコォ」
海洋側のホールから外を眺めていると、甘く気だるげな、聞き慣れた声が名前を呼ぶ。
改めまして、こんにちは。
「橘 倫子」。
倫子と書いて、ミチコです。私の名前です。
「…奥田」
振り返ると、やはり予想を裏切らない見慣れた顔があった。
奥田たきお。
よれた白衣にショッキングピンクの水玉シャツ、黒いネクタイに腰パンした黒いスラックス。
若者ぶってる二十七歳、誑かした女生徒と保健室でシケ込む規律破りの非常識保建医。
まあその、要するに顔馴染みです。
「ミチコ、行かねぇの?」
しけた煙草をいつも咥えている。咥えてるだけ。
ただのトレードマーク。
「行くよ。合同セクションでしょ?」
振り向いたまま言えば、白衣はやる気のない顔で笑顔を作って見せた。
「それそれー」
このなんとも気だるげな雰囲気が売りだそうで、特に年上の先輩方には大人気だとか。
だからベッドのお供には毎回毎回事欠かない、なんて公言する教師がどこにいるんだってハナシ。
毎晩毎晩、歳の離れた可愛い女の子を誘惑しては愛を囁く。
顔馴染みと言っても、私は愛を囁かれたことはない。
想像しただけで気持ち悪い。


