見れば倫子の血濡れた制服からは雨が滴り落ち、溶けた血が足を伝い黒のソックスにまで流れている。
「橘」
「なに」
「生理みたいだよ」
殴られた。
気を遣ってあえて言ってあげたのに、随分な扱いだ。
「奥田は?電話出た?」
倫子は息も絶え絶え雲雀に問い掛けながら首を傾げた。
避けるのも馬鹿らしくなり、殴られた頬を労ることなく雲雀は応える。
「…あぁ」
(そういえば、そんな名前の人と話したっけ)
雲雀はぼんやりと思い出した。
できれば消し去ってしまいたい記憶なだけに、思い出さなくてもよかったのだが。
「…すぐに迎えに来るそうだよ。君、遊んでないでシャワー浴びたら」
雲雀のもっともな提案に、しかし倫子は不満げに唇を尖らせた。
「ええ?折角楽しくなってきたのに」
「君が血濡れで帰りたいなら僕は別に構わない」
「…あぁ、そうか。あー、どうしよう…」
そんなに悩むことなの?
雲雀には到底理解できそうにない倫子の思考回路だ。
呆れるしかない。
「……雲雀も遊ばね?」
ザァザァと雨音が海面を叩く音が妙に心地良い。
それを縫って、倫子の不可思議な提案が雲雀の耳に滑り込んできた。
ニヤリとそう言い放った倫子に、雲雀はその眉間に深く皺を寄せる。
「猿ごっこ。一緒にしようよ」
「…丁重にお断りするよ」
「楽しいって!来いよ!」
「いや」
「ひーばーりぃ!」
「ちょっと、なんか幼児化してない?」
雲雀の手を引っ張って猿ごっこの輪へ戻ろうとする倫子の頭を鷲掴み、そのまま引きずる。
こうなったら無理矢理にでもシャワーに突っ込んでやろう。
「ちょ、イダダダダッ!爪が、爪が喰い込んでる!」
「大丈夫。計算通りだよ」
「なにが大丈夫?いちいち凶悪過ぎんだよテメェは!」
「その下品な言葉遣いは子供達の教育に悪影響を及ぼすよ。だから、遊ばせるわけにはいかないね」
「お前今自分がなにしてるか見てみろ!言葉遣いとか足元にも及ばねーよ!」


