「な、に?」
ぴくりともしない指先は、まるでじわじわと石に変わっていってしまうが如く。
(……橘)
脳内。
直接響いてきた声は、雲雀のもの。
(言い忘れてたけど)
ギチギチと目に見えないなにかに拘束されて動かない体。
視界の端に捕らえる雲雀は、倫子の相手をしている風もなく、変わらず真醍を相手に闘っているのに。
真醍を相手に闘いながら、倫子にまで力を消費している。
それでも揺るがないのは、「神」の名が成せる業か。
―――此処は、完全なる雲雀の支配下だ。
(下手な事をすれば、殴るだけじゃ済まさないよ)
(…その威圧的な態度、ちょっとは改めたほうがいいんじゃないの?キレーなオネーサン)
身体の自由を許可なく奪っておいてなにを偉そうに。
これくらい言わせてもらわなくては割りに合わない。
(…右腕)
雲雀からも苛立った空気が流れてきた。
ざまあみろ、と内心で毒づいたが、雲雀が言い放った単語の意味が理解できない。
(左腕)
体を硬直させられたまま、雲雀が繰り出す不可解な単語に苛、とこめかみが震える。
なにが言いたい?
(…失くすとしたら、どちらがいい)
脅迫だった。
(スンマセンデシタ。1ミリも動キマセン)
(うん、よろしい)
柔らかな赦しの言葉と共に、体を支配していた蜘蛛の糸のような力が感じられなくなった。
無駄に力を入れていたせいで、急に糸を切られた人形のようにガクリと膝を着く。
力の抜けた体で浜の先を見れば、雲雀は何事もなかったかのように真醍の相手をしていた。
その冷徹な姿形に、ゾ、と細胞が震える。
(───最悪、だ…)
支配から逃れられた身体に残ったものは、屈服された脆弱な神経。
(…あぁ、血が沸騰する)
自分の躰を、自由を、奪われた。
あの強大で主に忠実な力は、倫子の弱い体と心を容易に蝕んでゆく。
蟲が枝葉を伝い、脈動を残して食むように。
(―――そして骨も、残らない)


