「…あんた、どこにいたわけ」
「そこの松の木の上」
雲雀が視線をずらした先には、なるほど、立派な松の木が在る。
「雀がサル真似かよ…いだだだだだ!」
高くもない鼻を、思いきり摘ままれた。
「口には気をつけたら」
「ひてぇ!ひてぇよ!バカ!このバカ!」
「…誰がバカだって?」
抓られていた頬を思い切り弾かれた。
「ギャーッ!」
「煩い」
倫子にとって痛恨の一撃。
しかし痛すぎて文句も言えない。
いや、それよりも。
「ていうか、なに!このクレーターはなに!?」
思いきり雲雀の手を薙ぎ払い、その細い襟首を思いきりひっ掴む。
それを気にした風もなく、雲雀は掴まれた襟をそのままに倫子を見下ろした。
「さぁね。僕に訊くより彼に訊いた方が早い」
―――彼?
雲雀が倫子の頭を不意に鷲掴む。
すみません爪が皮膚に喰い込んでるんですけど。
そうして相変わらず涼やかな視線を流し、高い崖先を見遣る。
それに釣られて、倫子も視線を流せば。
「ヨォォゥ!見つけたぞ侵入者ァ!」
男がいた。
しかもなんだか、アホっぽい。
派手な着流しを左肩に引っかけて、なんの演出か、腰には日本刀。短く刈った髪は金色。見た姿は巨大な猿。
「やべーよ雲雀、本物の猿が出た」
「…いつまで引っ張る気?」
雲雀の眉がくいと器用に上がる。
互いに襟首を掴まれ、頭を鷲掴まれ、とおかしなポーズで謎の人物について考察を語った。
「てか、誰だアレ」
「馬鹿じゃない?」
「あぁ、なるほど、ただの馬鹿か」
「なんとかは高い所が好きっていうし」
「ナルホドねぇ。馬鹿に違いない」
そんな雲雀と倫子の会話に割って入ってきたのは。
「コラコラコラァ!折角のでぃすてにーな出逢いを無視しちゃうとかひどくない!?俺っち傷付くっちゃ!」
―――絶滅した筈の方便というものが聞こえた気がした。
「…原始人がいる」
それは聞き違いでも幻聴でもなかったらしい。
衝撃を受ける倫子の隣で、雲雀がぽつりと呟いた。
「誰が原始人じゃコラァァア!アダムがナンボのもんじゃコラァァア!!」
猿がゴリラの形相になって絶叫した。
あまりの大声に、耳鳴りがする。


