「まぁ確かに、役立たずなのは変わりないんだけど」
するりと岩場から浜に降りた雲雀に続きながら、そんな呟きに肩を竦めた。
「あんたって、跪かれるのが嫌いだよね」
だからと言って、逆らう相手にも容赦しない癖に。
「容赦なく圧力を掛けといて、それで相手が引くのが気に入らないみたいに」
あとに続く倫子の言葉は、雲雀の瞳孔をゆるりと鋭くさせた。
「解った風な口を、きくね」
響く、柔らかみが微かに削がれた声。
(…おまえもな)
「不愉快?」
「とても」
「じゃあ、私は愉快だ」
「言うね」
満足げな表情を浮かべる倫子に、雲雀も口角を釣り上げる。
(…懐柔されそうだ)
なんだかんだ言いつつ、良いパートナーじゃないか、と思ってしまった自分に、一喝。
甘い言葉に惹かれて懐いていい相手じゃないのは、百も承知だ。
見上げた見知らぬ空は、重く腫れた雨雲で覆われている。
「…雨だ」
呟けど、雲雀は黙々と歩を進めていた。
とはいっても、先の先まで見渡せるような大きな浜ではなく、ほんの数メートルの、小さな砂浜。
終点には大きな岸壁が横たわっていて、行く手を阻んでいる。
―――それなのに、雲雀は足を止めようとはしない。
「雲雀」
こいつ、ロッククライミングでもする気か?
倫子の呼びかけに、雲雀はやっと気付いたかのように足を止めた。
さくり、荒い砂が靴底で鳴る。
倫子の呼びかけに応えたというより、目測していた距離まで来たから止まったというところだろう。
可愛くないやつだなぁ、とは解りきったこと。
「見なよ」
左は海。右は絶壁。
絶壁の彼方には、旧文明の名残を残す、荒廃した城。
雲雀が視線を向けるのは、その廃れた建物だ。
「…?」
(なに愉快そうな顔して…)
雲雀のその表情を訝しみつつ、倫子もその右側を見遣る。
しかし見えるのは、枯れた木々の森に覆われた鉄の塊だけ。
なにを見ろと言ったのか。
これと言ってめぼしきものは、ない。


