「…修羅よ」
さらさらと吹く、風の匂いを嗅ぐ。
外の世界を、「彼」は久方ぶりに真っ直ぐに見ていた。
人の醜い業を見るしかない、この白濁の眼が。
「お前は、選んだのだな」
―――あの少女を。
哀れな、憐れな、傷付いた少女を。
(お前は、)
世界よりも、あの少女を。
「…それで、いい」
だからこそ、真鶸の体を造り直したのだから。
「運命は、彼女の為に先伸ばすことにしよう」
あぁ、今日の空は一段と悲しみに満ちている。
「桐生、さま…?」
拙い計画に巻き込まれた双子が、背後で桐生を窺っている。
悪いことをした、とは思わない。
桐生は確かに、自らの欲望のまま突き進んできたのだ。
そうしてそこに、罪悪など存在しない。
してはならなかった。
「―――私はもうすぐ朽ちよう。…お前達は、修羅のもとに往くがよい」
そして砂となる。
生きた歴史など要らぬ。
我が生きたこの世界に、神は産まれたのだ。
(それだけで、充分であったのに)
この掌で彼らを一瞬でも弄べたことに、至福を感じずにはいられない。
(…そして彼らを、破壊へは導かずに)
破壊の神を、生粋の神を、暖かな平穏の光の中へ導けたことが、なにより。
「桐生さま…」
驚きに満ちた声が背中に掛かる。
桐生に従うしかなかった憐れな双子、神に遣わされた子の断片。
「貴方ははじめから、修羅を…、雲雀様を…」
―――救いたかったのか。
いいや、そうではない。


