耳に悲鳴が届いた。
苦しいのだろう、痛いのだろう、辛いのだろう。
(―――嬉しい)
乾き始めた涙の痕に歓喜しながら、螺じ込むようにひとつになって空っぽな体を抱き締めた。
「…、ひ、ばっ」
断続的に痙攣する体は柔らかくこの身を包んでいる。
橘の胸に顔を埋め、喰らっているはずのこちらがまるで母に抱かれた赤ん坊のようで。
(…幼い子は、彼女にこんな酷いこと、しないのに)
溢れた血液の臭いが酷く鼻を突く。
それでも震えながら吐き出される橘の呼気にまぐわい、笑った。
「…僕と同じ匂いがする」
顔を上げて、既に消耗しきっている彼女の下唇に吸い付いた。
眠たげに閉じられていた瞼が少しだけ開き、その口角がゆるゆると上がる。
「…だって今、ひとつだ」
そう言って、笑うから。
同じだ。
融け合うような熱に侵されて、互いに動けないでいる。
下肢を巡る橘の内部に、それでも確かに、息を上げながら。
「…痛い?」
「死にそう」
けれど橘の体があまりにも小さくてひ弱だから、思わず、問うて。
問いかけたところで、手加減もできないくせに。
そうして返ってきた返答に、笑ってしまう。
「このまま死んじゃう?」
「…殺したいわけ?」
挑発的な視線は今は穏やかさを残し、今にも悲鳴を上げそうなほど、耐えていた。
疼く腰は未だ静止を保ちながら、再び橘の胸に顔を埋める。
―――そんな僕の髪を撫でながら動く、橘の視線。
「あめ…」
飴、に聞こえた。
当然、雨音を聞けばわかる「雨」だとしても。
それだけの甘ったるさを含んだ橘の声に、更に増す狂気を、必死に抑え込んで。
(…バカみたい。闘いでさえ、こんな必死になったことないのに)
僕にとって橘はどれだけの価値があるのかと問われれば、自分自身と相等すると答えるだろう。
「あめの音…、あんたの声に似てる」
僕の髪に指を差し込みながら、はらはらと落ちる涙のような、音。
(…ちがう)
下肢は繋がったまま上体を起こせば、驚いた橘の脚が震えた。
視界を同じくして、その視線を辿る。
壁一面の窓の先はいつも、荒廃した腐りかけの世界が広がっていた。
橘にとっても、決して優しくない世界で。


