「橘だけでいい。他はなにも要らない」
橘は悲しむだろうか。
橘は、こどもが無駄に好きだから。
―――でも。
「ねぇ、橘」
どれだけの想いを舌に乗せればいいだろう。
この際限のない想いが、どれだけ君に伝わるのか。
「…キスしていい?」
愛しいと、心臓が張り裂けそうなほど、想う。
頬を掬い上げて、ぼろぼろの顔に笑ってしまった。
剥き出しの胸板に橘の涙が垂れていて、そのまま心臓まで染みていけ、と願う。
―――あぁ、願ってばかりだ。
君と出会ってから、僕は。
祈る神すら、いないくせに。
「だって…」
両頬を拘束したまま、彼女はそうして、涙する。
どうしようもないくらい涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、赦しを乞うように、拙い口で、言う。
「…だって、わたし、こども、産めないよ?」
そうして震える橘は、どうしようもないくらい、かわいい。
「…雲雀は、血を作らなきゃ、救われない、って」
―――あぁ、だから君は。
『或いは、子を成し次に引き継げ』
無意識のうちに見せてしまったのだろう。
己に課せられた、使命からの免罪符と選択肢を。
「そんなもの、どうでもいい」
もとより誰かに託し、楽になろうなどと考えたことはなかった。
組み込まれた破壊遺伝子。
以前なら、こんな廃れた世界など存在する価値もないと考えていたのに。
壊してしまおうと、いつも絶望していたのに。
泥水に両足を固められてしまったかのように身動きの取れない腐乱の地で、僕はいつも醜悪でか弱く、狡猾な生き物に失望していた。
へつらうことしか知らぬ蛆虫や、権威にへばりつくことしかできない寄生虫に喰われたこの球体が憐れで、そして、嘆かわしくて。


