―――見るのも躊躇うくらい、綺麗な顔をぐちゃぐちゃに歪めて。
「…何度言えば、わかるの」
そんな、泣きそうな、声で。
「どうして、橘…」
問われていた。
なにかを、確かに。
けれど私はただ、その声に囚われるしか、なくて。
「…橘、」
たちばな。
たちばな。
鼓膜が、繊細に震えている。
(―――その声で、呼ぶな)
怖くなった。
雲雀のこんな声を、私は知らない。
理不尽に怒鳴りつけて逃げ出したいのに、不可視の糸に絡まってしまったかのように、動けない。
シーツに縫いとめられたまま、逸らすことの叶わない視線と、そんな私を見下ろす、美しい男は。
「…僕は、君が」
飽和していく。
体が内側から膨らんで、破裂してしまう。
―――溢れていく。
「好きなんだ…。こんなの、どうしたらいいのか自分でもわからないくらい、僕は」
まるで壊れてしまった人形のように。
雲雀が、あの雲雀が。
(ただ伝えることだけに、)
私に伝えたいって。
全てで、そう語るのだ。
「…橘がいい。橘じゃなきゃ、いやだ」
繰り返していく、言葉の螺旋。
「、」
その言葉に、内臓が飛び出そうになる。
(…だめ、雲雀)
私は、空っぽなんだ。
弛んだ皮膚の下に、命の営みはない。
『薬のせいだ』
奥田の無機質な声。
今でも、覚えている。
『お前の子宮はもう、機能してない』
私はどうしたって、子供を宿すことができない体だから。
―――だから。
「だめ…なの、私は」
お前を救うことが、できない。
『子を成すことで、神の子は―――』
(空っぽな私を、なにも産み出せやしない私を、あんたには差し出せない)


