(…って、なにを話すんだよ!)
かつ、と音を立てて、今の今まで急いでいた足が止まる。
一気に冷静になった頭が冷や汗を流す。
「…話すことなんかないだろ!」
思わず雄叫びを上げた。
沸騰していた脳味噌が急激に冷却され、その温度差にくらくらする。
(引き返そう…!)
よし、それしかない。
きゅ、と踵を翻した瞬間。
「…なんしてんの、あんた」
しかし端と気付けば、ロビンの目の前には既に倫子が立っていた。
「久しぶりじゃん、金髪ワカメ」
海側の柱に凭れ床に座り込み、ははっと軽快に笑うそれは、相変わらずだ。
(…相変わらず、間抜けな顔、してんのな)
すうっと冷えた頭に溜め息を吐く。
ゆるゆると息を吐いた先には、あれほど見たら困ったであろう倫子の、顔。
包帯は目立つが、顔色は悪くない。
「…怪我、いいのか」
思わず距離を保ったまま倫子を見下ろす。
いつもより明るい空に乱反射する光に包まれながら、倫子はけらけらと笑った。
「タフだけが取り柄でね」
あっけらかんと笑う。
なのに、笑うのに、今にも泣きそうだ。
まるでひび割れたガラス玉みたいに、危うい。
不用意に触れば、今にも崩れて墜ちてゆく。
「…隣り、いいか」
―――だからだ。
だから、こんなこと言ってる。
ロビンの申し出に目を丸くした倫子は、けれどすぐ笑って自分が腰を下ろす床の横を軽く叩いた。
彼女らしい親しみ深い仕草に、ロビンは少しだけ安堵する。
それに素直に従いながら、やはり泣きそうな横顔を盗み見れば、倫子はロビンを気にするでもなく、回廊の白い壁をただ眺めていた。
荒塗りが目立つ、白漆喰の壁。
見つめれば見つめるほど、柱の影に混じって汚れが見えてくるような気がする。


