(このまま進んで、そして橘となにを話す気なんだ、俺は)
グラグラ。
今にも吹き溢れそうだ。
自然、歩調が鈍くなる。
「―――っ…、」
が、すぐさま足の運びを早めた。
無意識に張り巡らせていた感覚のセンサーに強烈に引っかかったものが、もうひとつあったからだ。
(……雲雀だ)
こっちに向かっている。
―――ロビンと同じ方角。
『君が橘の名を口にすると不愉快だ、…酷くね』
そう言われたのを思い出す。
今行けば当然、鉢合わせるだろう。
遭遇を畏れ、物陰に隠れたところで気配に気付かれるだろうし、なによりそんな惨めな真似はしたくない。
―――橘と雲雀と、オレ。
(…いやだよな)
このまま引き返したら、倫子は雲雀と顔を合わせることになるだろう。
この人気の少ない回廊。
必然、ふたりきりになる。
(…いやいやいや、)
心臓の下から苛々が沸き上がってくる。
それに違和感を感じる余裕すら、ない。
『…橘は、君が思うほど弱くない』
わかりきったような口調。
(俺はまるで橘のことをわかっていないと面と向かって言いやがったあの男と橘が、ふたりきり)
ふたりきり。
(イライライライラ………)
「……Hung it!」
再び乱暴に歩き出した方角にいるのは、わかりきっている。
―――橘倫子。
(…この焦れったいもやもやはもうイヤだ。雲雀の野郎、来るってんなら来い!こうなったら全部、ハッキリさせてやる!)
早く、早く。
はやく、はやく、はやく!
視界内、三本目の柱を横切る。
曲がり角を左に抜け、少し視界の悪い回廊の死角。
雲雀はまだずっと後ろにいるから、倫子とふたりで話す時間も短くはない。


