「医療が進んでいれば、クローン化の話だって出ていた筈よ」
それほどに彼らは稀少な存在なのだ。
この先、果たして彼らのような存在が産まれるかわからないからこそ、保証として―――。
「…じゃあさあ」
ジニーがこどもには似つかわしくない気難しげな顔を浮かべて口を開く。
絵本を抱きながら、ゆっくりとベッド上で回転した。
「アナセスと雲雀が結婚したら、タチバナはどうなんのさ」
カッシャン。
ロビンが窓に額をぶつけたらしい。
ジニーは馬鹿にしたように笑ったが、ニーロはあえてコメントは避けた。
恐らくここでなにか言えば、それこそロビンの地雷を踏みかねない。
(―――橘、)
そんなロビンの思考大半を埋める、女の名前。
『君には関係ない』
雲雀に蹴り飛ばされ、そう言い捨てられた自分が虚しい。
言われなくとも、わかっている。
(…わかってんだよ。橘をどうこうしようなんて思ってない。……て、だからさあ、オレ)
何故、アナセスではなく橘倫子のことばかり考えているのか。
(…もういやだ)
自問自答したところで答えが得られる筈もない。
なので、ロビンは考えるのをやめることにした。
「あら、どこ行くの」
「…散歩」
ニーロの問い掛けに短く返し、ついてこようとするジニーを無言で睨みつけて部屋を出た。
「……、」
足早に部屋を出て、右か左かを迷う。
足先の感覚に違和感を覚えつつ―――恐らく気分の問題だろうと思われるが、すぐさま左へと足を向けた。
大した理由はない。
ただ感覚を研ぎ澄ましたら、右には人の気配が多すぎたのだ。
(…それだけ、だ)
決して左の方角に、馬鹿女の気配があったからではない。
(それだけ、それだけ、それだけ)
我ながら惨めだ。
(行くなよ俺、行くな、バカ!俺のバカ!)
しかし、進む方角から確実に強くなる倫子の気配に鼓動が早まるのも自覚している。
着々と縮まる距離。
久々に感じた気配が、鼻孔を擽る。
(…アイツ、もう怪我はいいのか)
頭から振り払いたい思考はぐらぐらと巻き返し、沸騰した鍋の中のように沸き立っている。


