(雲雀の顔は、もう見れないけど)
見たらきっと、全て鈍ってしまう。
決意も想いも我慢も全て、瓦解していくだろうから。
(失望されるくらいなら、嫌われたほうがマシだ)
この劣悪な体は、なにも造らない。
「…私も、」
苦笑しながら漏らしかけた言葉を理性が止める。
「なんだ?」
耳聡く聞き付けた鐘鬼に追求するなと笑い、内心で自分を殴りつけた。
『私も取り戻したい』
余白などとうにない。
はじめから、穢れは全身を、内部を、隅々に浸透している。
(救われたいなんて、思い上がりもいいとこだ)
この体は、希望に浸かるわけにはいかない。
「大罪の証」は、忘れてはならないからだ。
(雲雀に赦されたことだけで、それだけでよかったのに)
それなのに、どんどん欲張りになってゆく。
雲雀を知れば知るほど、強欲になっていくこの体と心が可愛くて仕方ない。
雲雀を愛しいと想うこの気持ちを抱けた自分を、誉めてやりたい。
(…でも)
望んじゃいけない。
「…雲雀は、知らないんだな」
それは少しだけの憐れみと、真実。
傷からひきつる痛みはもう、廃れていく気配を。
「知らなくていいよ、こんなつまんないこと」
鍾鬼の静かな言葉、笑って答えた。
荒れた指先で心臓をなぞる。
服越しでも判る皮膚の凹凸は、いつだって私を戒めている蕀だ。
枯れることも育つこともない。
「…鐘鬼」
いつかこの蕀に飲まれ死んでいくのだろうか。
「真醍の赤ちゃん、可愛かった?」
暗澹とした世界の底に沈み、二度と浮かびあがらない死体になる。
だから私は、あいつが望む存在にはなれないのだ。
「…あぁ、お前もいつか抱かせてもらえばいい」
今にも涙が墜ちそうな鐘鬼の声は、慰めだろうか。
「…バカだね、私も」
涙が溢れるのは、まだ諦めがついてないからだ。
伝わればいい。
この実らない想いだけが、ただ切実に伝わってくれればいい。
(雲雀…、)
あぁ、こんなにも、あんたが好きだ。


