「エマにはこれ以上の苦労はかけさせたくないから、嫁にはやらないよ~?」


冗談めかして笑ってはいるが、真剣な眼差しをしたルクトに、イシュトは苦々しく笑った。


言葉尻を捉えることもなく、黙って頷く。


その仕草にルクトは満足はしなかったようだがそれ以上は何も言わず、「じゃ、荷物のとこまで戻ろっか」と言って歩き出す。


玲奈はというと、兵たちに対峙しただけでも気を張っていたから、王国やら王位継承やらで余計に頭が混乱していた。


何だか話が見えないことに、イライラしたようにフードの上から頭をかきむしる。


先程ヴァンにかけられたプレッシャーや、その前のイシュトとのやりとりを含め、色々ありすぎて、なんだか無性に腹が立つ。


それでも、この世界に来て初めて会った者であるエマが──ロボットかよ…と謗ったエマが、

ルクトが川から消えたときに取り乱した彼女の姿が思い浮かび、

なんとなく、その荒みそうになった玲奈の心を、やんわりと穏やかなものにした。


「なぁにやってんの~?」

ルクトが振り返ってそう大きく言った頃には、玲奈は「声、うっせぇよ」とぼやきながら、足を踏み出していた。