私達はしばらく

互いに無言のまま見つめあっていた

しばらくして

彼がゆっくりと口を開いた

「感謝するのは僕のほうだ」



そしてまた再び長い沈黙が訪れた

夕焼けが深い色に変わっていく

その中で彼の目が

少し潤んでいるように見えた






生きる意味を

生きる目的を失ってもなお

そしてこの身体さえ

はかなく消えかけようとしていても

もうこれで思い残すことは何もない

そう心の中で確かめたとき

この胸の中に

驚くほどの平安が満ちるのを

苦しいほどに感じていた

この圧倒的な平安

そして理由のない絶対的な確信

静かな夕闇のかすかな光の中で

この身体がなくなることさえも

まるでおそれることがないくらいに




もうなにひとつ

失われるものがないかのように…





              〔完〕