深夜

暗闇に懐中電灯の弱い光がちらつく

全てはいつもと

ほとんど変わりがなかった

ただひとつ

見学者がいることを除いては






青年医師は

私の説明に愕然としていた

それも当たり前だ

私が告発すれば

この病院自体のダメージになり

担当医個人の責任など

遥かに越える事件になる

しかも猟奇的で陰険極まりない犯罪

記憶喪失で負傷して

収容されている入院患者を

薬で眠らせ暴行する

それも医師が

彼は最初否定した

では見に来て下さい

深夜に私の病室まで

彼は答えなかった






担当医は

やはりリングを取り外しに

来たようだった

私の腕に

鋭い刺すような痛みがはしり

多分麻酔を注射したはずだ

口にまたあの器具が挿入され

歯に金属がはさみこまれる

私の体から

感覚が急速に失われていく

麻酔が効き始めてくる

彼は拑子で舌を引きずり出す

リングのあたりがひきつるが

痛みはない

担当医は

唾液でぬめるリングに

てこずっているようで

器具を操る手が

次第に荒くなっているようだった

顔に圧迫感が強まり

上下に揺さぶられる

舌打ちが聞こえてくる

彼は何も気づいていなかった




「先生」

突然彼が声を掛けた

そして

部屋の電気のスイッチを入れた


明るみに

担当医の恐怖に張り付いた顔を

彼は見たのだろうか