眠りにおちる直前の

深夜の魔界がまた ひらく

ああ…きた

薬で薄れた意識の中に

生暖かい唇の感触

なぶられるままに

声もでないまま喘ぐ

舌がまたゆっくりと

唇の間から押し込まれる

身体が動かない

声も出ない

そうなる時間をこいつは

知ってる

消灯後の病室は暗く

そいつの顔を未だにみたことがない

不思議なのは

犯すのは唇 だけ

だということ…

多分こっちの下半身は

激しく反応しているはずなのに

唇以外の身体の他の部分は

すべてスルーし…



あ…また なぶられる

舌をかきまわされ柔らかく吸われる

頭が痺れてくる

指で唇がいやらしくなぞられ

その指で歯をこじ開け

口に埋めこまれる

一本…二本…と指が舌をこねまわす

それが執拗に何度も繰り返される

気が遠くなりそうな

淫靡な指の動きに

薬のモウロウ感とは違う痺れが

頭から身体中に広がっていく

こんなに感じてしまうもの?

たった唇と舌だけで

こんなにも狂わされるの?

喘ぎ声が微かに洩れ始める

あ…

あ…

あ…

いつの間にか毎日

待ち焦がれてしまっている

そんな自分がいる

期待を裏切らずそれはやってくる

海で死にかけたあとも

変わらずにやってくる

もしかして

あいつなのか?

私を死なせてくれなかったあの男

なのだろうか

私に人の体温を刻みこんだ

あの快活な好青年のふりをしている

あの…