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 それから数日間、僕は新作を書きながら、また図書館に缶詰になっている奈々に電話したり、メールしたりしていた。


 彼女は奨学金を無料でもらいながら、勉強三昧の日々を送っている。
 

 日本文学は研究すればするほど面白いというのが奈々の持論だ。


 僕は完全に書き手の方に回っていたから、彼女のように読書したり、文献(ぶんけん)を渉猟(しょうりょう)したりすることはまずない。


 ひたすら書き続けていた。


 いつか誰かの目に留まることを期待しながら……。


 そして自分の作品が評価されるのを待ちながら……。


 時間は過ぎていき、短い春も終わって、また蒸すような夏が訪れる。


 僕はもうキャンパスには用がなかったのだが、話をするときは決まって学内のカフェを使う。


 僕自身、大学に未練は全くないのだった。


 別に卒業しようが、中退しようが、元々作家を志望している人間にとって学歴などどう