「今、まだ春先だから冷たいよ」


「もう太陽がこんなに燦々(さんさん)としてるじゃない?こんなときは思い切ってあの海に行くのが一番」


 奈々がそう言い、起き上がって、


「あたし、折りたたみ式の自転車持ってるから。今から部屋に戻るから、いつもみたいに正門前で」


 と重ねて言って、借り立ての自分のマンションに向け歩き出す。


 僕は冷蔵庫のポケットに入っている冷たい飲み水の入ったペットボトルを取り出し、リュックに入れた。


 そして奈々が出た後、自分も貴重品を身に付け、部屋に施錠する。


 バタンという音でオートロックが掛かり、僕はマンション付属の駐輪場まで歩いていった。


 彼女と一緒に海に行く僕は約二年ぶりに眺める水面がどんなに青いか、秘かに期待していた。


 正門前まで来ると、奈々が五分ほど遅れてやってくる。