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 僕に思わぬ電話が掛かってきたのは、その年の八月中旬だった。


 そう、留学中の奈々からである。


 彼女はロンドンにある賃貸アパートに住み、毎日大学や付属の図書館に通って、専門の勉強をしているようだ。


 僕は充電器に差し込んでいたケータイが鳴り出したのを見て取り、


“もしかして奈々からかも”


 と思いながら、フリップを開いてディスプレイを見つめる。


 彼女のケータイの番号が明滅していた。


 僕が迷わず出る。


「はい」


 ――ああ、駿一?


「おう、電話じゃ久しぶりだな」


 ――どう?元気してる?