危険な誘惑にくちづけを

 わたし。

 そんな言葉を、ため息と一緒に、飲み込んだ。

 ……だって。

 だって、現実のわたしは……

 ……こんなにキレイじゃ、ない。

 だけども、わたしが、スケッチブックを見ているのを知って。

 佐倉君は、ちょっと、ためらったみたいだったけれど。

 絵をもっと良く見えるように、動かして、言った。

「そうだよ。
 オイラの目には、春陽ちゃんが、こう見えるんだ」

「……ウソ」

「ウソなもんか。
 だって……見えなければ、書けないだろ?」

 それは、そうかもしれないけれど。

 ……でも。

 なんて戸惑っていると。

 佐倉君は、珍しく真剣な顔をして、わたしを見た。

「ねぇ、春陽ちゃん。
 ……例えば、今だったら。
 春陽ちゃんのコト。
 ……好き。
 ……とか言ったら、信じてくれる……?」

「えっ……!」

 めったに見たコトのない、佐倉君の表情を見て。

 心臓が。

 ときん……と鳴る?

 ウソ……!

 うっそ、だよね?

 何かの間違いよね?

 わたし、佐倉君じゃない、別のヒトが好きなのに。

 紫音のコトを。




 ……愛しているのに。