危険な誘惑にくちづけを

「そーねぇ~~
 ココロって、目で見えないしねぇ。
 残念ねぇ~~」

 もう、水島ったら!

 口では、残念とかって言ってるけど。

 本当は、ちっとも、そう思ってないでしょう?

 水島は、気もなさげに『残念』を連発すると。

 佐倉君をほとんど無視して、自分の花の絵を仕上げるべく。

 スケッチブックを開いて、デッサンの続きを始めた。

 佐倉君は、一瞬。

 子犬みたいな目で、わたしに期待するような視線を送って来た。

 でも。

 わたしには、本当に、好きなヒト、いるから。

 佐倉君には、悪かったけど。

 わたしも水島を真似して、佐倉君を無視して、自分のスケッチブックに視線を落とそうとした。

 と。



 ……そのとき。



 ついでに見えた、佐倉君のスケッチブックを見て。

 思わず、息を呑んだ。



 佐倉君の、スケッチブックには。

『花』だけが。

 驚くぐらい上手な、花の絵が描かれているだけじゃなかったから。

 咲き乱れる、花に囲まれた、女の子。

 穏やかに。

 キレイに笑う顔は。

「……これ、もしかしたら」

 ……わたし……?

 なんてこと、は無いよね?