危険な誘惑にくちづけを

「ぜんぜん、違うわよっ!」

 嬉しそうな佐倉君に、水島は、ぴしゃりと言った。

「あんたも、前に春陽から聞いたことがあるでしょう?
 春陽の、今、留学中のホストな彼氏が帰って来ているんだって」

「えええっ!
 そんなヤツ、本当に居たんだ」

 そう言うと。

 佐倉君は、細い目を力いっぱい見開いた。

 ん、もう!

 どのヒトも、このヒトも、まったく、もう!

「……佐倉君も、わたしの話を、信じてなかったんだ」

 思わず、ため息をつくと、佐倉君は、がしがしとアタマを掻いた。

「だって、なあ」

「……じゃあ、わたしの話は、何だと思ってたの?」

 そう、聞けば。

 佐倉君は、にまっ、と笑う。

「え~~
 オイラの嫉妬心を煽って、かえって気を引いているのかなって」

「……!」

 な、なによ、それ!

 驚いているわたしの横で、水島があきれた声をあげた。

「アンタ。
 自分が避けられているって自覚ないの?」

「避けられてる?
 オイラが?」

 水島の言葉に、佐倉君は、ちっちっち、と指を振った。