危険な誘惑にくちづけを

「……前科がある、ヤバい薬の売人だけど?」

「……は?」

「だから。
 刑務所に入ったことのある……
 やくざ屋さんとか、他に『裏社会』とかっていうところに顔がきく、ヒト、なんだけど?」

「へ、へえ」

 思いもかけなかったらしい、わたしの話に佐倉君は、驚いた顔をして……言った。

「……それもまた、春陽ちゃんの、ウソ……?」

「……ウソだと、思う?」

 ……本当の薫ちゃんは。

 どうしても、の事情で罪を犯した前科一犯の『元』薬の売人だったり。

 今は、ちゃんと罪を償い。

 海外暮らしで、日本の悪いヒトとは縁が切れているはずだけど。

 わたしはウソをついては、いない。

 正直、こんな言い方は、薫ちゃんに申し訳なかったし、ドキドキだったけれども。

 それでも、少しでも佐倉君から自由になるために。

 わたしは精いっぱいにワルそうな顔をして、佐倉君を脅そうとした。

「しゃべり方は、どうあれ。
 本当は、とても怖い人よ?
 しかも聞いての通り、近くに来たら、電話をくれるくらい親しいお友達だし。
 わたしに構うと、佐倉君こそ大変なコトになると思わない?」