危険な誘惑にくちづけを

【全くない】とは、言い切れなかったから。

 紫音は、ものすごく強い人だから。

 自分の意思に関係なく、誰かに連れさらわれたりする可能性は、とっても低い。

 事故とか、そういったことに巻き込まれていても、電話ぐらいはできる……はず。

 なのに。

 まったく何も電話がこないのは、なぜ?

 どう考えても、自分で。

 わたしの目の前から、いなくなるつもりでしかないと考えられなかった。

 しかも。

 ……しかも。

 薫ちゃんには『長期休暇』を取ったって言ったのに。

 わたしには、そんなコト、一度も話してくれてなくて……!

 もう。

 紫音の何を信じればいいのか、全く判らない……!

 正直なところ。

 一番最初に頭に浮かんでしまったのは。

 佐倉君が言ったコト。

 ……実は、わたしに内緒で他の誰かと浮気をしてるんじゃないか、っていうところだった。

 紫音は、元ホストで、本当にカッコ良かったから。

 連絡が取れないほどの大きな事故や……

 もしかして……死、なんていう最悪な結果よりも。

 とりあえず、納得は、出来たからかもしれない。



 ……それでも。