危険な誘惑にくちづけを

「……今日はこれから、オイラと付き合ってくれる予定だったよ、ね?」

 横でずっと聞いていた佐倉君が、ぞっとするほど静かな声を出した。

「春陽ちゃんって、やっぱりウソつき?
 このままオイラを置いて、行っちゃうの……!?」

「佐倉君……!」

『春陽ちゃん?』

 わたしのつぶやいた言葉を拾って、薫ちゃんが不思議そうな声を出した。

 だけども。

 佐倉君との会話を……薫ちゃんに聞かれるワケになんていかなかった。

 わたしは、薫ちゃんに、またすぐ、かけ直すコトを言って、電話を切ってから。

 そして。

 ありったけの勇気を出して、佐倉君を睨んだ。

「……行かせて」

「電話のオカマのトコロに?
 ヤダね。
 彼氏から何の連絡が無いって、さ。
 ただ、ウソをついているだけじやないの?
 春陽ちゃんじやない、新しい彼女の家にでもいたりして、さ」

 くっくっく、と。

 楽しそうに、佐倉君が喉を鳴らして笑う。

「みんなで探したら、かえって迷惑だったりして」

「そ……!
 そんなコト!」

 頭にちらりと浮かんだ不安を、佐倉君に見透かされて、声がかすかに震えた。