危険な誘惑にくちづけを

 驚いているわたしに向かって、薫ちゃんの声が続く。

『ほら、ここで久しぶりに、紫音ちゃんが長期間、帰るっていう話じゃない?
 あたしの方でも、日本でやるコト出来ちゃったから。
 帰ってくる日にちを、合わせちゃったのよ。
 ……見せたいモノも、あるし』

 ……え?

 ナニそれ……!

 薫ちゃんの信じられない言葉に、わたしは声も出せなかった。

『……春陽ちゃん?』

 どうしたの?

 っていう、薫ちゃんの言葉に、わたしは、呆然と言葉を紡ぐ。

「紫音が、長期に帰ってくるって、日本に、よね?」

『もちろん、そうよ?』

「……てない!」

『え?』

「そんなの、ちっとも、わたしは聞いてない!
 だって、紫音、昨日の朝には、フランスに帰ったのに!」

 そう。

 紫音は、おとといの晩。

 わたしの部屋を飛び出して行ったきり、朝には荷物がなくなってて……!

 それ以来、一度も、連絡を取りあっていなかった。

 今回日本に来るって言う話も。

 もともと、一緒にいられる時間は二日間だけ、って聞いていたから。

 わたしは、すっかり紫音がフランスに行ってしまったモノとばかり、思っていた。