危険な誘惑にくちづけを

 


 か……薫ちゃんだ……!


 その。

 ほとんどありえない、懐かしい名前に向かって受話器ボタンを押すと。

 相変わらずの声が、響いた。

『まあ!
 春陽ちゃん?
 出てくれて嬉しいわ!
 あたし、薫ちゃんよ?』

「……なんだ、男?
 誰だよ、それ」

 佐倉君は、薫ちゃんのしゃべり方と、声の低さのギャップに驚いているらしい。

 そんな彼から、なるべく離れた。

 携帯電話を取られないようにしっかり持って、話した。

 とはいえ。

 薫ちゃんだって海外にいるハズだったから、特に、何も期待はできなかったけれども……!

「どうしたの?
 薫ちゃん!
 今、どこにいるの……!?」

 相手に、心配をかけちゃいけない、とは思いつつ。

 必死になってしまう声を抑えて聞けば。

 信じられない、薫ちゃんの答えが返ってきた。




『あたし?
 今、日本よ。
 しかも、春陽ちゃんの部屋に一番近い駅』




 ……え!

 ドコ、だって……!?