危険な誘惑にくちづけを

「……それは、かなり。
 ……責任重大だな」

 台詞の中身より、大分軽い口調で紫音は、言った。

 見れば、なんだか、楽しそうだ。

 ん、もう!
 
 笑いごとじゃ、ないんだから!
 
「ほとんどがプラスチックで出来てる、作りモノのケーキよりも。
 春陽の作ってくれた、食べられるケーキのが絶対いい。
 って言ってくれるのは、嬉しいんだけど……
 たくさん人を呼ぶわけじゃないから、あまり大きくなくってもいいし。
 式場の厨房を借りれるから、夏でも、保存は、バッチリ……!
 ……なんて、言ってるんだけど……」

「ああ」

「仮にも、ウェディング・ケーキよね?
 変なのなんて、作れないわよねっ!?」

「……まあな」

「……なのに、わたし……!
 製菓学校で、いつも。
 デザイン・デコレーションのテストが赤点でっ……!」

「……くす」

「ん、もう!
 今、紫音笑ったでしょっ……!
 本当に、笑いごとなんかじゃ、ないんだって!」

 ぷんぷんと、腹を立てるわたしを見て。

 紫音は、本格的に、げらげらと笑った。

「し・お・んっ!」

 腕の中から、するり、と抜け出して、起き上がるわたしに。

 紫音は、ぱたぱたと、手を振って抱きよせた。

「いや、悪い。
 オレも、ケーキを作りだした頃は。
 デコレーションが、一番ダメだったから。
 つい、な」
 
「えっ……紫音が?」