Sin

もう心配無いと医師が断言してくれた頃、八百屋の店主はリハビリに良いだろうと言ってシンにかなり古い型のタイプライターをくれた。倉庫を片付けていたら出て来たらしい。

「まだ使えるし、おもちゃ代わりに良いかと思ってな」

数ヶ月経つ頃、シンは引き攣りながらも口元が少し動くようになった。

思うように動かない手足を懸命に動かそうとリハビリも頑張った。たまに予測出来ない動きをする腕で自分の顔を叩いてしまう時もあったけれど投げ出さずに続けた。

夜になって花びらを閉じたたんぽぽの花のように固くすぼまったままの指先で、シンはタイプライターのキーを一つ一つ押した。

一列印字する度に鳴るベルの音が気に入ったらしく、シンは何度もベルを鳴らしては満足そうに目を細めていた。


しかしどんなに頑張っても、シンは歩く事と話す事は出来なかった。彼の喉は時々“音”を出すことは出来たが、言葉にはならなかった。