Sin

『本気で憎んでるんじゃない……!』

不意に、苦しげな声が聞こえた。額に手を当てもう一つ溜息を吐き出す。

あれから二週間。シンの母親は一度も現れなかった。

「本心だった……って事か」

ほっとする反面、切なくて。

『母さん、昔から俺の事嫌いだった訳じゃなくてさ』

なのに、何故。いつ、どこでどうして狂ってしまったのか。

しつこいほど纏わり付いてくる疑問。見えるようで見えない答え。

『疲れたの』

複雑に絡まった心の糸を早く解けていたなら、誰かが早く手を差し延べていたなら。

そうしたらこんな事にはならなかったのだろうか。

「今更……か」

時間を巻き戻す事など誰にも出来ない。自分に出来るのは、起きてしまった事を踏まえた上で“これから”どうするかだ。

ジャックはゆっくり起き上がり、軽く痛む頭を抑えた。

「……人の心は複雑過ぎるな」

数学とは違う。公式を当てはめれば正しい答えに行き着けるような、そんな簡単な物ではない。

蛇口をひねり、コップに水を汲む。

『本気で殺したかったんじゃない……!』

一瞬自分の母親の声に聞こえ、コップから溢れている水を見つめているジャックの表情が暗くなった。