「ですが、あの…」
スタッフの人は必死に奈美さんをなだめようとするが、奈美さんは首を横に振るばかり。
「このシーンは、本番の勢いだけでいきたいの。
お願いします…」
奈美さんは言い終えると、素早く頭を下げた。
…こんな奈美さん、見たことがなかった。
俺の知ってる奈美さんは、いつもニコニコしてて優しそうな、そんなイメージ。
だけど、今は…
このドラマを少しでも良いものにしようと頑張っている。
これこそ、「女優の顔」なんだろう。
俺が奈美さんの行動にあっけを取られていると、横で立ち上がった男の人が手でOKサインを作っていた。
一人だけ大きいイスに座っていたから、どうやら監督だろう。
「分かりました。
それでは、今から本番行きます!!」
スタッフの掛け声が辺りに響く。
…いよいよか。
俺は握りこぶしを作って、立ち位置についた。
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