しばらくして会堂へ行くと、牧師がひとり。月明かりの差し込む窓の下、聖書の朗読をしていた。

「どうかされましたか?」

 私に気がつくと、聖書を閉じて、笑顔で問い掛ける。

「あなたは、私がこわくないのか? あんななりで、傷もない私を不審に思わないのか?」

 私が聞くと、牧師は少し思案して答えた。

「あなたが何故血にまみれていたのか、私には理由はわかりませんが……そのロザリオは、神の羊である証でしょう?」

 そう言って私の首にかけられたロザリオに目線を送る。

「これは……母の形見だ。それに私は神は信じない……いや、今となっては神の名を口にすることさえ許されないようことを私はしてしまった」

 そう呟いてうつむく私を、牧師はただ静かに見つめて、私の声に耳を傾けている。